「がん研究が無駄とは…」事業仕分けで「廃止」 久留米大の臨床試験中止に

「がん研究が無駄とは…」事業仕分けで「廃止」 久留米大の臨床試験中止に

科学技術 地方は衰退懸念
 2010年度政府予算の事業仕分けで、「廃止」や「予算縮減」が相次いだ科学技術分野。久留米大(福岡県久留米市)が中心となって取り組むがんワクチン研究も「廃止」とされ、波紋が広がっている。今月始める予定だった臨床試験は「見通しが立たない」として中止になった。年末に予定される予算編成で「復活」はあるのか。関係者は注視している。

 今月4日、久留米大病院。前立腺がんを患う佐賀県内の男性(70)の太ももに、看護師が「がんペプチドワクチン」を注射した。免疫細胞を活性化し、がん細胞を攻撃させる狙いがあり、抗がん剤や放射線治療に比べ副作用は弱いとされる。

 がん細胞表面にある「ペプチド」と呼ばれるアミノ酸結合物と、同じタイプのワクチンを接種する仕組み。久留米大は患者の免疫細胞の性質に合わせ、最も効果的なものを接種する方法を確立、2005年、前立腺がんなどのワクチンの実用化に向け治験が始まった。

 医薬品として承認されていないため、公的医療保険は適用されず、1回の治療(6回接種)で約60万円かかるが全国から患者が訪れる。男性は「副作用がほとんどなくありがたい」。だが「廃止」の動きに、「研究が進めば、保険を使って多くのがん患者が接種を受けられるようになるのに……」と漏らした。

 今回廃止とされたのは、肺がん、ぼうこうがん、肝臓がんのワクチンの効果を検証する共同研究。新産業創出を目指す文部科学省の「知的クラスター創成事業」に採択された。今年度から5年間、毎年3億円の補助金を受ける予定で、久留米大など全国の約20大学で今月、患者約300人に接種を始めることにしていた。

 ところが、知的クラスター創成事業は、事業仕分けで「廃止」とされた。「経済産業省の分野ではないか」「規模が小さく成果が生まれない」。仕分け人は研究の中身に踏み込まず、事業の枠組みなどを問題視した。

 前立腺がんの治験は継続されるが、肺がんなどのワクチン研究が宙に浮く形になった。ワクチン開発は各国がしのぎを削っており、久留米大の山田亮教授(がん免疫学)は「先に特許を取られれば、計画は頓挫する。研究の停滞は致命的だ。国民の2人に1人ががんになる時代に、無駄と判定されるとは」と嘆いた。

 事業仕分けでは、「都市エリア産学官連携促進事業」も「廃止」。九州保健福祉大(宮崎県延岡市)などが取り組む認知症予防の研究は、この事業の補助金を受けていた。チョウザメに豊富なアミノ酸結合物「カルノシン」に予防効果があることを突き止めており、企業と連携し健康食品などへの応用を探る予定だった。

 両事業は地方の科学技術振興を目的とし、全国43地域で最先端の研究が進む。「廃止」への反発は強く、33道府県知事が先月30日、緊急共同声明を発表。文科省には、研究者らから廃止への反対意見が500件以上寄せられているという。

 宮崎県工業支援課の担当者は「県内は中小企業ばかりで、自前の研究開発は難しい。国の支援がなければ、地方はますます衰退してしまう」と訴えている。

閣僚からも異論
 各省庁による概算要求の中から無駄を洗い出す事業仕分けで、科学技術予算は幅広い分野で厳しい評価を受けた。次世代スーパーコンピューター開発予算(概算要求268億円)は「事実上の凍結」。文部科学省には、抗議などのメールが800件以上届き、閣僚からも異論が出た。

 官民共同の中型ロケット「GX」エンジン研究開発(同58億円)は「予算計上見送り」、若手研究者の育成に充てる競争的資金(同626億円)は「予算縮減」。要求通り認められたのは国際熱核融合実験炉(ITER)の研究開発(同33億円)だけだった。

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