【会社をダメにした「あの一言」】処分や進退には言及せず「第一生命 生保不払い問題」

【会社をダメにした「あの一言」】処分や進退には言及せず「第一生命 生保不払い問題」

 2005年夏、明治安田生命による保険金の不当な不払い問題は、他の大手生命保険会社に飛び火し、06年-07年には生保業界全体の問題となった。

 大手各社では、年間数百から数千件の保険金・給付金の不払いがある。契約者に重大な過失がある場合や犯罪に絡むものなどが原因の「不払い」については各社が査定基準を作成し、個別契約ごとに支払うか否かを決める。明治安田生命の不払いは、契約者の過失を必要以上に厳しく認定し、不払いにしたものが多かった。そのため、同業他社にも金融庁が報告を求めた。

 背景には、90年代の「保険自由化」で料金や商品を競う時代に突入し、競争が激化したことがある。厳しい営業ノルマが課せられ、自分や家族が自腹で保険に入る「自爆」が常態化していた。営業偏重と保険金の支払いを軽視する体質は業界全体にあった。

 各社の不払い報告は渋々の感が否めず、発表のたびに件数と金額はケタ違いに増えていった。

 第一生命は、07年4月の中間報告では7000件、23億円。それが、10月の報告では5万件超、約130億円(最終的には189億円)にまで膨らんだ。

 10月5日、金融庁への不払い報告の後、斎藤勝利社長は記者会見を行い謝罪した。だが、経営責任について問われると「再発防止を徹底し、お客さまの信頼を獲得するのが経営責任」などと繰り返し、自らの処分や進退には言及しなかった。

 第一生命の不払いで多かったのは、がん、脳卒中、心筋梗塞と診断された時に保険金が出る「3大疾病特約」に関するものだった。中でもがんに限った不払いの件数は不明ながら、最も多いとみられた。

 生保側が診断書をもとに請求を促すこともできるのだが、この不払いの公表にあたって同社は、契約者本人から請求がなかったことを強調した。さらに、「加入者に連絡すると、がんの事実上の告知になってしまうので、保険加入の周知ができなかった」として、自社の判断の妥当性を訴えた。契約者ががん告知を受けていない場合、保険会社が連絡することが、がん告知につながると反論したのだ。この言い訳に対し、金融庁は「契約者保護の時代に、そんな説明が通ると思っているのか」と激怒したという。

 「もうきみには頼まない」とは、戦中から戦後にかけて第一生命の社長を務めた気骨の財界人、石坂泰三の伝記のタイトルである。だが、この言葉が、今度は契約者から生保各社に投げつけられ、生保離れが加速した。(村上信夫)

■むらかみ・のぶお 放送作家。数々のニュース番組や人気番組を担当するかたわら、立教大学大学院で不祥事報道、不祥事史、メディア・リテラシーを研究中。著書に「企業不祥事が止まらない理由」(芙蓉書房)などがある。

トラックバック&コメント

この記事のトラックバックURL:

まだトラックバック、コメントがありません。


骨肉腫と闘う:/19 人工関節外せぬ、あぐらと決別=社会部・佐々木雅彦 /大阪 »
« がん患者:「同じ境遇の人、支えたい」 家族が冊子、治療の心構えまとめる /愛媛