患者さんのためになる「がん治療認定医」

患者さんのためになる「がん治療認定医」

【第91回】今井浩三さん(日本がん治療認定医機構理事長)

 約3000人のがん診療医たちが参加する4回目の「がん治療認定医」の試験が12月20日、千葉の幕張メッセで実施される。「安心してかかれるがん診療医(がん治療認定医)を育て、そうした医師を誰もが簡単に探すことのできる制度を確立する」。その実現を目指して3年前に設立された「日本がん治療認定医機構」は、2015年までに2万5000人の認定医を育成することを目標にしている。3回の試験を経て認定医の数は順調に増え、現在は5962人。しかし、患者が簡単に探すことができる仕組みづくりは難航しているという。同機構理事長の今井さんは、「患者さんのために」と繰り返し口にする。患者のためになるがん治療認定医制度とは、どんなものなのか―。(前原幸恵)
■日本癌治療学会、日本癌学会、日本臨床腫瘍学会、全国がん(成人病)センター協議会の4団体で設立した同機構が、患者団体の意見などを基に養成している「がん治療認定医」。「がん治療の共通基盤となる臨床腫瘍学の知識とその実践を支える基本的技術を有する医師」と定義されており、「患者さんの身近にいるがんの総合診療医」と言うことができるという。

-患者の医療ニーズをとらえた「がん治療認定医」を育成したいと考えられたと聞きましたが、第1回の試験には、想像を超える医師たちの申し込みがあった。これは、医療者側もこうしたがん診療医の教育システムを待っていたということでしょうか。

 当初われわれの予想では、試験希望者は500人ぐらいだと考えていました。それが予想を大きく上回る5000人以上の申し込みが来て、正直驚きました。わたしたちは30代ぐらいの若い医師の育成を念頭に制度をつくったのですが、既に別の学会の専門医の資格を持っているような40代、50代の医師も受験したようです。「こういう制度があるなら取っておこう」という向学心、日本人特有の熱心さが影響したのでしょうね。
 それに加え、現場の医師には患者が必要としている医療が何なのか、分かっているからだと思います。具体的にいうと、がん医療全般の正確な医療情報を患者に与えられることや、各領域の専門医と連携して患者が求めるがん医療を確実に実践することなどです。自分の専門領域だけでなく、他の診療科の最新知識も吸収するような医師が、今のがん医療には求められているのです。

-日本には既に、各学会が実施している専門医制度があります。そこに「認定医制度」をさらに創設したのはなぜですか。

 「学会」は、手術の新しい技術を学んだり、欧米でやっていることをいち早く取り入れたり、世界一の医療を目指すのが基本的な方向性です。それが医師本人はもちろん、患者さんにとっても、いいことだという考えが今までの主流でした。
 でも実は「最先端の専門技術に特化した医師よりも、がん治療の新しい情報を網羅した医師に診てもらいたい」という患者ニーズが存在していた。わたしたちは今まで、それを見過ごしていたのです。
 トップ技術を目指す医療関係者と、全国どこにいても最善のがん治療が受けられることを求める患者サイドにずれがあった。本当は、医師は現場で患者の声を聞いていれば気付けたはずですが、今から思えば医療界全体が患者さんの思いから少し遊離していたのでしょうね。
 でも今、がん医療はすごい勢いで進歩しています。多くの患者が求める医療を行う「認定医」と、がん医療の中でも専門特化した、より高い技術で患者を治療する「専門医」の住み分けが必要な時代になりました。「認定医」「専門医」の2段階制を取るこの制度で、医師全体のレベルも、日本のがん医療水準も、高くなると考えています。

■日本がん治療認定医機構は10月17日、機構の活動の報告会を発足後初めて開催した。認定医の啓発と今後の課題の整理を目的としたもので、参加した関係者や患者団体の代表などは「認定医の質を今後どう維持していくのか」「関連学会との連携の在り方」などを課題として指摘した。

-報告会で「質の担保」について意見が各方面から上がっていましたが、今井さんはどうお考えになりますか。

 認定や更新には厳しい態度で臨んでいるため、質が下がることはないと思います。ただ、10年後のがん医療をめぐる環境は変化しているかもしれません。そうなったときは、現在5年単位の更新のペースを3年にするなど考えます。でも基本的にわたしは、その点に関しては心配していません。むしろ今一番の課題は、せっかく育てた認定医が患者に伝わっていないことです。今いる約6000人の認定医をいかに患者に知らせるか。所属病院、それぞれの医師のバックグラウンドなどを患者が簡単に知ることができる仕組みづくりが、何より大事だと思いますが、今の機構には体制的にも金銭的理由からも、これ以上の作業は困難です。今後、例えば抗がん剤などを製造・販売している製薬団体に協力を要請したりして、情報の周知の仕組みづくりを行いたいと考えています。
 また「質の担保」という意味では、機構の今後の方向性について議論する際などには、患者団体の考えをきちんと把握し、それを踏まえて制度を変化させていくのが最も適切なことだと思います。そのために、患者団体の方とのディスカッションも考えています。「ここは変えた方がいいが、この点は誤解があります」など、会話の中でつくり上げていくのが一番重要です。
 この3年間は忙しくて、その必要性は分かっていながら、手を出すゆとりが全くありませんでした。今後はそうした対話を基に、認定医が患者さんの役に立つような制度にしていきたいと思います。そのためには、自治体や地元報道機関とリンクして総合的にやっていかないと、われわれだけがやるのは無理です。皆さんぜひ協力してください。

-専門医を認定している学会との連携については、どうお考えですか。

 われわれ機構の仕事は、患者団体と上手に情報交換していくことで、専門学会と折り合うためにつくったわけではありませんから、そうしたことはいってみれば二次的なことで、最も重要だとは思っていません。
 確かに最初は専門学会の方々から、「専門医がいるのに、なぜこんなものが必要なんだ」という質問や反論が山ほど寄せられました。だからわたしたちは、専門学会の代表者を集めて説明会を実施して、「われわれは若い人にまずこれをやってもらいたい」「どんな地方にいても患者が困らずに治療を受けられるように多くの認定医をつくりたい」ということを説明しました。その上で、学会が認定する「専門医」との住み分けも説明して、「見守ってください」と繰り返し説得してきました。
 現在では理解が進んでいます。われわれとしては今後も関係学会に対して毎年現状報告をするつもりですし、ゆくゆくは、ほかの学会からも機構の運営に参加してもらい、組織を少しずつ大きく育てていきたいと思っています。後は実績あるのみです。幸いにも、これだけいろんな学会に入っている医師たちが試験を受けに来ているということは、理解が進んでいるということでしょうし、また現場の医師に求められている証拠だと確信しています。

-機構の活動も含めて、今後の日本のがん医療を発展させるために今、必要なことは具体的に何でしょうか。

 がん対策基本法ができて、文部科学省は「がんプロフェッショナル養成プラン」を立てて、厚生労働省は「がん診療連携拠点病院」をつくって、わたしたちは同じ時期に認定医をつくり、それらが連動し始めました。非常に役者がそろったと言えるでしょう。
 要望としては、国にこうした政策を継続してほしいと思います。基盤がきっちりできて初めて、欧米並みのがん医療環境が整うのですから。
 また医療界全体に目を向けて話をすれば、死にそうになって働いている医師や看護師の環境整備も大事です。「こんなに働いているのに、どうして赤字経営なのか」が多くの医療関係者の意見でしょう。
 機構は、「日本のがん治療基盤の脆弱さ」をどうにかしようということで設立しました。医療機関の経営が厳しいことは、この問題と直接の関係はありませんが、でも無関係とも言えないと思います。いくら患者を助けようという思いが強くても、技術や資格を持っていても、疲弊していたらよい医療ができるわけがないです。いくら志が高くても、それだけでご飯は食べられませんからね。あまりにひどい状況で、このままではいい医者がいなくなってしまいます。そうなるとどんどん悪化して、医療が破綻します。これは政治主導で頑張ってもらわなくてはいけません。
 その一方でわたしたちは、標準的な医療をきちんとできる若手医師、2万人の認定医を育て、それを患者さんに提供し、役立ててもらう仕組みをつくる。それが機構として、今の日本の医療、がん患者さんのためにできることだと考えています

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