がん登録 広島県の歴史と課題

がん登録 広島県の歴史と課題

◆対策推進協の鎌田七男さんに聞く
  どれだけの人が、どこのがんになり、治療の結果どうなったのか。広島県がん対策推進協議会がん登録運営部会長で医師の鎌田七男さん(72)は四半世紀にわたり、がん患者の情報を集め、予防や良質な医療につなげる事業に尽力してきた。他県に先駆けた事業の歴史と課題を聞いた。
(辻外記子)

――広島のがん登録はどのように始まったのですか
  戦後、白血病やがんになる被爆者がとても多かった。実態調査をしようと1957年、米国がつくった原爆傷害調査委員会(ABCC)と広島市医師会が市内の8病院(後に16病院)を訪問し、カルテにある情報を書き取った「臨床登録」が最初です。73年には県医師会やABCC、広島大学などが中心になり、2番目の「広島県腫瘍登録事業」(病理登録)を始めました。県内全域の病院や臨床検査センターに、すべての腫瘍の染色標本や病理診断書を提出するよう依頼したのです。02年には3番目となる「県地域がん登録」事業が始まりました。病名や治療内容などの臨床的項目と、悪性度やがんの広がり具合などの病理学的項目について、県内すべての医療機関に報告するよう求めたのです。

――3番目の登録事業はスムーズに進みましたか
  がん患者さんが最初に退院したときに1回目を、亡くなった時に2回目の報告を求めました。慣れた人でも1人分の記入に20分ほどかかります。当初、医師からは「忙し過ぎて書けない」、また個人情報保護の高まりで病院からは「資料を外部に出せません」と拒否されました。02年は235件、03年は4117件、04年は5600件。思うように数が増えず、病院を巡り、頭を下げ続けました。

◆登録率上げ精度向上へ
――どのように登録は増えたのでしょうか
  04年、転機が訪れました。地方公共団体などへの診療情報の提供は、個人情報保護法によって制限されないという通知を厚生労働省が出した。国による第3次対がん10カ年総合戦略には、がん登録の重要性が盛り込まれていました。05年以降、登録数は倍々に増えていきました。05年には、2番目の病理登録と3番目の登録事業が統合され、さらに高精度のがん登録へ発展してきました。また、カルテの整理やがん登録書類への記入は、医師の代わりに診療情報管理士が行うようになりました。広島県では、07年から年に4回、診療情報管理士向けの研修をするなど、人材育成にも力を入れています。

◆予防と治療に情報活用
――がん登録の有用性を教えてください
  どの地域ででも同様に、質の高いがん治療を受けられる態勢が目指されています。でも現状では、がんにかかる人の数、罹患(りかん)率、生存率、治療効果の把握など、がん対策の基礎となるデータが不足しています。がん登録を進めることにより、地域格差や病院ごとの違いが明らかになります。広島県では肝がんが多いなど、県や地域ごとの傾向がわかれば、効率的な健診ができるなど住民の健康に有用な施策につながります。登録票を提出した医療機関には、さらに多くの情報を還元し、活用してもらえるようにしたいです。

――今後の課題は
  精度向上のため、登録率を上げなければなりません。未登録であるがゆえ、死亡診断書によって初めて、がんにかかっていたことがわかる患者の割合(DCN)を減らす。未登録の患者が多い病院へ問い合わせをする「溯り調査」をし、登録情報を集めています。昨年は30人以上未登録だった病院が対象でしたが、今年は10人以上を対象に調査中です。ただ、中国地方では島根県で登録事業自体が始まっていないなど、自治体による差が激しい。県境をまたいで隣の県からきた患者さんについては、他県の人だからと登録しないことが多い。県単位の事業には限界があるので、将来的には国内統一の事業となるのが望ましいでしょう。

■ がん登録 ■
  都道府県による「地域がん登録」は09年12月現在、35道府県で実施され、国立がんセンターがん対策情報センターに報告されている。他に、がん診療連携拠点病院に義務付けている施設ごとの「院内がん登録」と、肺や胃など部位ごとに学会や研究会が調査する「臓器がん登録」がある。09年9月に内閣府が実施した世論調査でがん登録の認知度を聞いたところ、「知っている」と答えたのはわずか13・6%だった。

● かまだ・ななお ●
  1937年鹿児島県日置市生まれ。61年広島大学医学部卒業。同付属病院被爆内科助手などをへて85年、同原爆放射能医学研究所教授。85年~広島県腫瘍(しゅよう)登録事業の白血病を担当。97~99年原医研所長。原爆投下後に爆心地に近づいた「入市被爆者」が、白血病を高い率で発症することなどを報告した。00年に広大名誉教授。01年から広島原爆被爆者援護事業団理事長、翌年からは広島県地域がん登録事業の運営部会長も務める。

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