【宮家邦彦のWorld Watch】「がん細胞」の転移を防げ

【宮家邦彦のWorld Watch】「がん細胞」の転移を防げ

普天間移設計画は事実上死んでしまった。名護市長選挙で普天間飛行場の辺野古移設に反対する候補が勝利したからだ。反対派はさらに勢いづき、鳩山由紀夫首相の「5月までに結論」との国際公約も先送りは必至である。ついに日米安保で「がん細胞」の増殖が始まったのだ。

 予想されたこととはいえ、何とも異常な事態である。国家の安全保障問題が一地方選挙の「千数百票差」により左右されて本当に良いのか。この期に及んでも、連立与党側はその重大性を十分理解していないようだ。

 会社に例えてみよう。旧経営陣に代わって就任した社長が新たな経営方針を発表した。最大のお得意先との関係を全面的に見直し、より対等な取引関係を模索すると明言する。既存の契約は事実上棚上げされ、社内で再検討作業が始まった。

 当然ながら、社員の間に動揺が走る。担当取締役たちの発言はバラバラ、社長の命令も朝令暮改ばかり。重要な意思決定はすべて先送りされ、取引先からもクレームが殺到する。一支店どころか、一出張所でのトラブルすら解決できず、会社全体の営業が危機にひんするようになる。

 ビジネスは信用第一。経営能力のない素人社長が有力取引先の信用を失えば、収入は激減し、その企業は早晩傾くだろう。新社長の経営責任は株主総会で厳しく問われることになる。こんなこと実業界では当たり前の話だが、悲しいことに、これが今の日本外交の実態だ。

 がん細胞はできてしまったが、憂えてばかりでは、がんが体中に広がってしまう。今の民主党政策責任者に必要なことは、日米同盟が「がん」という病に侵されていること、その転移を防ぐため直ちに必要な治療を行う必要があること、を正確に理解することではないか。
 具体的には次の4点が重要である。

 第1に、一刻も早く民主党政権が安全保障の分野でも「選挙モード」を離れ、「統治モード」に入ること。政権交代から既に4カ月が過ぎ、国民は具体的な結果を求め始めている。安易なキャンペーンとパフォーマンスこそが日米同盟の病の真の原因ではなかろうか。

 第2に、普天間飛行場移設問題を他の安全保障問題と一時的に切り離し、普天間以外の諸懸案について日本政府としての確固たる立場を決定すること。この重要な作業については、社民党など連立パートナーにさらなる「拒否権」を認めてはならない。

 第3に、日米事務レベルの協議を信頼しつつ、同盟強化のため合意可能な方策を探ること。事務レベルでの率直な意見交換は日米間の最低限の信頼回復にとって不可欠だ。日米共通認識が固まるまでは、政治レベルの不必要な「雑音」は最小限にとどめるべきである。

 第4に、日米政治レベルの真の対話を再活性化させること。米国関係者にとっても普天間移転計画頓挫は大きなショックであろう。だが、このまま日米同盟全体まで頓挫させることは日米双方、特に日本にとって利益とならないことを理解すべきである。

 幸い、似たような問題意識はワシントンでも対日強硬派、柔軟派を問わず、広がりつつあるようだ。日本側の全面譲歩でも、日米同盟の破局でもない「第三の道」を探る動きは11月のAPEC首脳会議に向けて徐々に顕在化しつつある。鳩山政権が対米関係の改善を望むならば、恐らくこれが最後のチャンスとなるだろう。日本側の真に責任ある対応が強く望まれる。

【プロフィル】宮家邦彦

 みやけ・くにひこ 昭和28(1953)年、神奈川県生まれ。栄光学園高、東京大学法学部卒。53年外務省入省。中東1課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを歴任し、平成17年退官。安倍内閣では、首相公邸連絡調整官を務めた。現在、立命館大学客員教授、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。

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