香山リカのココロの万華鏡:「お金と闘う」がん患者 /東京

香山リカのココロの万華鏡:「お金と闘う」がん患者 /東京

テレビのドキュメンタリー番組が基になって生まれた一冊の本に衝撃を受けた。

 「がん患者、お金との闘い」(札幌テレビ放送取材班)がそれだ。

 今や日本人のふたりにひとりががんになる時代、と言われるが、患者さんや家族の経済的負担についてはあまり語られていない。

 日本には健康保険もあれば高額療養費制度もあるし、生命保険に入っている人も多いし、と思う人もいるかもしれないが、これらの制度にはいろいろな問題もある。

 もちろん、患者さん自身が治療のために仕事を減らしたり、やめなくてはならなくなれば、それだけですぐに家計は大きな痛手を受けることになる。さらに最先端の抗がん剤などの治療を受けようと思うと、その負担は莫大(ばくだい)なものになる。

 実際に番組を作ったテレビ局が取ったアンケートでは、9割以上の患者さんが「経済的負担を感じる」と答えている。

 しかし、がん患者に対する公的支援はほとんどなく、わずかに使える制度についてもよく知られていないのが実情だ。

 たとえば、今はがんも障害年金受給の対象になっているのだが、社会保険事務所の窓口さえ、そのことを知らないことがあるという。

 本書に登場する、がん薬物療法専門医である結城医師は、お金がないからと治療をやめていく患者さんを多数見てきた経験を語りながら、こう言う。「抗がん剤が高いことは開発費にお金がかかっているのでしようがない現状だが、僕ももっと勉強していろんな助成の制度をお伝えできればいいと思った」

 そう、これからは「医者は医学のことだけしか知らない」では、患者さんを本当の意味で助けることはできない。

 患者さんの心のこと、生活のこと、そして経済的な問題や助成の制度まで目配りをできて、はじめて“主治医”としての機能を果たしたことになる。

 そこまではちょっと、という場合でも、せめて「何か使える制度があるはずだから、医療ソーシャルワーカーに尋ねてみて」とつなぐくらいの気持ちは不可欠だろう。

 とはいえ、日々の診療や書類書き、新しい治療法、薬を覚えるので精いっぱいで、とかく「治療費のこと? 私に言われてもわからないよ」などと言ってしまいがちなのが医者というもの。

 私も「お金との闘い」が病気以上に患者さんたちを苦しめている場合がある、という現実を忘れないでおきたいと思った。

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