がんを生きる:/60 戦いを終えて/中 天国への道、安らかに /大阪

がんを生きる:/60 戦いを終えて/中 天国への道、安らかに /大阪

◇「これからも3人一緒」の思い深く
 「『道』の字が書きたい」

 03年に乳幼児に特有のがん「神経芽腫(がしゅ)」と診断され、昨年11月、闘病を終え天に召された田村結人君(当時8歳)=茨木市。亡くなる1カ月前の昨年10月16日、病室で筆を握ると、周囲が驚くほどの大人っぽい字を書いて見せた。当時、血の混じったたんが口の中にあふれるなど体調管理が難しく、「何でこんなに次から次に(しんどいことが)続くねん」といら立っていた。悟りすらにじむ「道」の字。この2日後、人工呼吸器を付けた。

 大人びた言動は、昨年9月に使っていた漢字帳での、習った漢字を用いた自作の例文にも表れていた。「天国にもうちょっとしたら『着』く」「『幸』せを神様にねがってもぜんぜんこない」。厳しい状況に真正面から向かい合った証拠だが、まだまだ幼い少年にとって、成長と呼ぶには過酷にも思えた。

   ◇  ◇

 父太郎さん(38)は人工呼吸器を付けた判断が正しかったのか、揺れていた。母亜紀子さん(36)も、何とか楽にさせてあげたいものの、その術(すべ)が見つけだせずにいた。一方の結人君は、ヒーローもののDVDを見たり、プラモデルで遊んでいたが、がんは左目の奥にも転移し、容赦なかった。

 現実に押し切られそうになっていた3人を1本の糸として固く紡ぎ直してくれたのは、「天国の話」だった。

 まずは太郎さん。「今までちゃんと言ってなかったけど、(同じ病棟にいた)○○ちゃんも○○ちゃんも、みーんな天国に行ってんねん。おばあちゃんもそうやから、安心やな。ええところらしいで。行ったことないけどな」。人工呼吸器の管を口から入れているため声が出せず、代わりに鼻をヒクヒクさせて意思表示していた結人君も、この時ばかりは微動だにしなかった。

 そして亜紀子さん。「天国はみんな行くところやよ。かあちゃんが先行くかもしれへんし、結人かもしれない。でも、いつ誰が行ってもいつも3人一緒やよ」

   ◇  ◇

 両親が交代で付き添った最後の1週間は、3人がこれからも家族であり続けるための、必要な時間だった。「結人は勝ったんやで」。亜紀子さんが語りかける。「もう、かあちゃんも結人の体の心配はしないし、何食べても、何してもいいんやで。(大親友の)匠人君のような元気な体になるから。結人は自由になるよ」。もうろうとした意識の中、結人君の顔から苦悶(くもん)がスーッと消え、安らかな表情に変わった。

 「ほな、先にいくで。どんなところか分かったら、教えたるわ」。両親が見守る中、「天国への道」をトコトコと駆けだした。【福田隆】

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