がんの市民講座から:/上 標準治療は「今の最良策」

がんの市民講座から:/上 標準治療は「今の最良策」

厚生労働省研究班のがん専門医たちが「がんになったあなたや家族が今できること」と題した市民公開講座(毎日新聞社など後援)を、東京都文京区の東京大で開いた。講座の中から「がんになった時に受ける標準治療と先端医療」と題した5種類のがんについての講演を2回に分けて紹介する。今回は食道がんと乳がんを取り上げる。【高木昭午】

 ◆食道

 ◇抗がん剤後に手術
 日月(たちもり)裕司・国立がんセンター中央病院食道外科医長は「手術ができる場合は、抗がん剤治療の後で手術をするのが標準」と説明した。治療後の生存率が最も高い方法という。

 手術は大規模で複雑だ。食道をすべて切り取り胃をのどの近くまでつり上げて食物の道を作る。首や腹のリンパ節も広く切る。日月さんは「経験の多い病院で受ける方がよい」と勧めた。各病院の年間手術数は「食道切除再建(手術)等」の数として入り口近くに掲示してある。

 また、抗がん剤と放射線を組み合わせた治療について、「手術よりやや生存率が劣るが、手術を受けたくない人が選ぶ」と説明した。この治療では患者の約2割が再発して手術を受けるという。

 「抗がん剤と放射線で治療した後に手術」という先端医療も紹介した。新しい方法のため今後、臨床試験で効果と安全性を確認する。

 権丈(けんじょう)雅浩・広島大病院助教(放射線腫瘍(しゅよう)学)は「手術できない場合の標準は抗がん剤と放射線の組み合わせ」と説明。この方法では、進行具合が初期の1期のがんで95%、最も進んだ4期で35%の患者が、一度はがんの塊が消えたと話した。しかし、消えた後で再発する場合もあるという。

 先端医療としては、がん以外に当たる放射線を減らす「強度変調放射線治療」などを紹介した。

 ◆乳房

 ◇「温存療法」が普及
 木下貴之・国立がんセンター中央病院乳腺科医長は、がんの周囲だけを切り取る「乳房温存療法」が普及してきたと話した。乳房全体を切る「乳房切除術」と20年後の生存率が同等だとのデータを示したほか、「手術後に放射線治療を受けた方が、がん再発を減らせる」と述べた。一方で、触っても分からないがん細胞が乳房内で広がっている場合など、温存療法が向かない場合もあると指摘した。

 早期の患者には、手術中に脇の下のリンパ節を1個から数個切り、がん細胞の有無を検査する「センチネルリンパ節生検」が盛んなことも紹介した。検査すると、一般に、4人に3人はリンパ節にがん細胞がない。手術を狭い範囲に限定できるため、腕がむくんで上げにくくなるなどの副作用も避けられる。

 先端医療としては「ラジオ波熱凝固療法」などを紹介した。乳房に針を刺し、針先から出る電磁波でがんを焼く。乳房を切らずにすむが、がんを焼き残しても確認できない点などが課題という。

 京都大病院放射線治療科の光森通英(みつもりみちひで)准教授は、乳がんでの放射線の役割を「手術で残った目に見えないがん細胞の根絶」と説明。放射線は副作用(むくみや1000人に1人程度の2次発がん)もあるが再発や転移を減らす効果が勝ると訴えた。手術だけを受けた患者より放射線を併用した患者の方が、15年後の生存率は高いと指摘した。

 1回に当てる放射線の量を増やし、回数を減らす「短期照射」という先端医療も紹介した。有望な治療法で費用も安いが、標準治療になるには数年かかるという。

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 ◇標準治療と先端医療
 講演の共通テーマだった「標準治療」は「並の治療」のことではない。木下さんは「多くの治療経験から最もよいと考えられる治療」と説明し、1種類とは限らないと付け加えた。また先端医療を「標準治療の次期候補」とし、患者は特徴を理解して臨床試験として受けてほしいと話した。光森さんは先端医療を「プロ野球ドラフト1位の新人」に例え、大活躍もあるが従来のエース(標準治療)に勝てず芽が出ないことも多いと説明した。先端医療が標準治療になるには10年程度かかるという。

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