Dr.中川のがんから死生をみつめる:/44 「長い自由時間」の意味

Dr.中川のがんから死生をみつめる:/44 「長い自由時間」の意味

織田信長は、「人生50年」と言って舞いましたが、いまや「人生80年」の時代です。

 しかし、子どもを産んで、子育てを終えれば、「生物としての任務」は終わり、とも言えます。ほとんどの生物のメスは生殖を終えると、ほどなく個体の死を迎えます。遺伝子の視点から見れば、「用済み」だからです。人類に最も近いチンパンジーも、閉経後の寿命は数年、長くても50歳くらいまでしか生きません。

 この点、人間の場合は、子どもを産み、閉経したあとも、女性は、男性以上に長く生き続けます。日本人女性の平均寿命は86歳ですから、50歳で閉経したとしても、40年近く残りの人生があるのです。

 この「長寿のおばあちゃん」の存在も、人間の進化と関係があるのではないか、と考えられています。

 人間は脳が進化した結果、「十月十日」以上、母の胎内にいると、頭が大きくなりすぎて産道を通れなくなります。このため、他の哺乳(ほにゅう)類より「早産」の段階で生まれています。馬やキリンのように、生後数時間で立つことなどできません。大きな脳のおかげで、からだ自体は、「未熟児」として生まれてくるのです。

 そんな人間の赤ちゃんは、一人では生きていけませんから、親が子どもの成長をサポートする必要があります。離乳後も、一人で社会生活を営めるようになるまでに、20年近い時間がかかります。この間、親だけで育てるのは大変なので、「強力な助っ人」として、「おばあちゃん」の出番があるという考え方です。

 結果として、人間は老後の時間が長くなりました。信長が生きた戦国時代などは、医療や生活環境が整備されていなかったため、小さな子どもの死亡率が高く、平均寿命は短いものでした。一方、成人した人の多くは長生きでした。たとえば、伊能忠敬は49歳で隠居、55歳から測量を始め、20年近くかけて「大日本沿海輿地全図」を作りました。ご隠居は尊敬される存在でした。

 長い老後は、38億年という生物の進化の歴史上、初めて出現した「おまけの時間」といえます。その「長い自由時間」の意味を、私たちは見直すべきだと思います。

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