Dr.中川のがんから死生をみつめる:/47 余命告知の厳しい現実

Dr.中川のがんから死生をみつめる:/47 余命告知の厳しい現実

私が医師になった1980年代は、がんは病名の告知もされていませんでした。90年代になると徐々に病名が告知されるようになりましたが、余命が告知されるようになったのは、つい最近のことです。

 今、若い医師は、当然のように告知をしています。しかし、残念ながら、余命を告げられる側の思いに寄り添う医師は、多いとは言えません。余命は、過去のデータに基づいて告知されますが、一人一人の余命がデータ通りであるはずはありません。そもそも、あなたの隣にいる人の寿命を言い当てることはできないでしょう。がん患者への余命告知も、同じように「理不尽な側面」があるのです。

 また、がん治療の進歩によって、再発・転移のある場合の余命も長くなっています。胃がん、大腸がんなどでは、10年前の2~3倍になっています。

 それでも、再発・転移があると、余命が限られることに、変わりはありません。そして、このことが患者自身や市民にも知られるようになりました。

 がん治療では、「科学的証拠に基づくがん治療」(EBM)の考えのもと、国際的に通用する「標準治療」が行われるようになり、ガイドラインなどの形で公表されています。専門医だけが知っていたがん治療の真実を、だれもが知りえるようになったのです。余命告知も、この流れと無縁ではありません。

 がんの種類によって、「標準治療」はほぼ決まっています。最初に行う(ファーストライン)標準治療が効かなくなると、次のセカンドライン、さらにサードラインと、標準治療の内容は順に変わっていきます。しかし、標準治療の数は限られていますから、やがて「治療法はもうありません」という時点を迎えます。そして、この時点で余命が告げられることになります。

 「治療法がない」と告げられた人々が、「がん難民」になります。医師が個人の経験から、独自の治療をしていた以前のがん治療ではありえなかったことです。患者本位の医療をめざした結果、患者自身が厳しい現実を背負うことになったのです。

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