がん相談センター:人生支える、英国がん相談

がん相談センター:人生支える、英国がん相談

◇家庭的建物、NPOが運営/患者らの本音引き出す
 「がん」と告知され治療が始まると、自分の人生、仕事、家族のことなど、一気に不安が押し寄せる。がん対策基本法施行後、全国の地域がん診療連携拠点病院に「相談支援センター」が設置されたが、利用は伸びていない。一方、英国で96年に始まったがん相談センターの取り組みが世界の注目を集めている。【永山悦子】

 ドアを開けると、コンロに乗ったやかんがシュンシュンと鳴り、湯気が上る。大きな食卓を囲むスタッフが笑顔で迎え、温かい紅茶が目の前に置かれる。英国に9カ所あるがん相談センター「マギーズ・キャンサー・ケアリング・センター(マギーセンター)」の日常風景だ。

 センターを訪れるのは、近接する病院に通うがん患者と家族、治療に携わる病院のスタッフたち。迎えるのは、がん専門看護師、臨床心理士、放射線療法士ら、がん医療の専門家。そして、カップを手にした患者たちは、自然に心配事や悩みを語り始める。

 子宮がんの告知を受けた女性は、新しい交際相手ができたばかり。彼と結婚し、子どもを育てることを夢見ていた。だが、治療で子宮を摘出しなければならない。「がんによって、すべてを失った」と思っていた。

 センターでは臨床心理士が対応、女性患者のグループ活動を紹介した。彼女はやがて、「子どもを持てないこと以外、何も変わっていない。自分のすべてが奪われたわけではなく、自分の存在には価値がある」と考えるようになった。センターは、交際相手の支援にも取り組んだ。そして、二人は結婚した。

 同センター最高経営者のローラ・リーさん(43)は「がん患者は多くの不安を持つが、病院では相談する場所も時間もない。センターに来て、不安を持つことが当たり前であり、皆が同じように悩んでいると知ると、前向きに人生を歩けるようになる」と話す。

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 英国では国民の3人に1人が、がんを患う。がん医療の進歩に伴い、日常生活に復帰する人が増えた一方、再発の不安や、仕事との両立など、新たな課題が浮上している。

 センターは、がんのため95年に53歳で亡くなったマギー・ケズウィック・ジェンクスさんの遺志で、英エディンバラに第1号が開設された。リーさんはマギーさんが通う病院の看護師だった。マギーさんから「病院は治療後の人生のサポートまではしてくれない。患者が適切なアドバイスを受け、生きる喜びを持ち続けられる場所がほしい」と提案され、センターの計画にかかわるようになった。

 センターの利用は無料。必要な情報の提供、カウンセリングやグループ活動などを実施する。エディンバラのセンターは1日約80人が訪れる。日本のNPOのような組織で運営し、費用は地域や企業からの寄付などでまかなう。建物は著名な建築家による斬新な外観、中に入ると開放的で家庭的な造りが特徴だ。「病院とは違う、家庭的な建物を使うことによって、患者は主治医を気にすることなく、自分の本音をさらけ出せる」とリーさん。

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 先月、東京都と金沢市で、リーさんらを招いたシンポジウムが開かれた。各会場では、「患者が求める情報が提供されていない」「どんな病状になっても、患者には生きる力がある」などの意見が出され、日本でも、患者を支える体制の必要性が明らかになった。リーさんは「がん患者の悩みや課題は、国境を超えて共通だと思う。患者たちが集う食卓を、一つでも多く増やしたい」と話す。

 08年、英国以外で初となるセンターが香港に開設された。日本でも開設を模索する動きがある。東京のシンポジウムを企画した、地域医療の将来像を模索する「30年後の医療の姿を考える会」の秋山正子会長は「日本での実現に向けて、一歩を踏み出すきっかけにしたい」と話している。

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