Dr.中川のがんから死生をみつめる:/49 余命とどう向き合うか

Dr.中川のがんから死生をみつめる:/49 余命とどう向き合うか

「余命」について、私自身の経験を振り返ってみても、個々の患者の皆さんの余命を「言い当てる」ことは簡単ではありません。たとえば、食道がんの化学放射線治療(放射線治療と抗がん剤を同時に使う方法で、手術と変わらない治療結果が得られる)の後、再発した37人の患者の場合、再発後の余命の中央値(19番目に長く生きた方の数字)は、約9カ月でしたが、一番短いと1カ月、長い場合は約3年と大きなばらつきがありました。余命を「中央値」で表現することの問題が分かります。

 余命は、過去のデータに基づきますが、一人一人の余命が、データ通りであるはずはありません。医師は「神」でも「占師」でもありません。そもそも、余命告知には、無理な面があるといえます。

 しかし、たかがデータ、されどデータです。過去のデータがまったくなければ、海図のない航海のようなもの。人生の仕上げにあたっての、微妙な舵(かじ)取りが難しくなります。

 戦前から戦中、日本人の死因のトップだった結核は、戦後に大きく減りました。高度成長期は、脳卒中が死因第1位になりました。脳卒中による死は、まさに「ピンピンコロリ」です。しかし、1981年から死因第1位はがんです。現在、がんの年間死亡数は34万人を超えています。

 がんによる死は、予想される死です。しかも、今や「残り時間」まで告げられるようになっています。この「ゆっくりと迫り来る死」を、私たちはどうやって受け入れるべきなのでしょうか。

 これまでの日本人は大家族で暮らしながら、高齢者の老いや死を、生活の一部として経験できました。老いや死の「予習」が可能でした。また、「あの世」や「極楽」など、死の恐怖をやわらげる「クッション」もありました。しかし、現在の日本では、こうした死を支えるすべを私たちはすっかり失っています。

 現代日本人にとって、死の恐怖はこれまでになく大きくなっているといえるでしょう。しかも、高齢社会を迎える日本人の死亡数は、今後30年増え続けます。「多死社会」へ突入する日本において、死と向き合う準備をすることが大切といえます。

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