Dr.中川のがんから死生をみつめる:/50 「さよなら」のための時間

Dr.中川のがんから死生をみつめる:/50 「さよなら」のための時間

フランスの科学者、パスカルは「人間は生まれながらの死刑囚」という意味の文章を残しましたが、フランスでは1981年、死刑は廃止されています。同じように世界の多くの国で死刑が廃止されていますが、内閣府の世論調査によると、日本人の86%が死刑制度に賛成しています。私は、この数字にも、「死は人ごと」という、現代日本人の感覚が反映されているように感じます。

 死刑制度の存続を含め、後の死刑の基準を示すことになった「永山裁判」後、現在までに82人の死刑が執行されました。死刑は、判決が確定してから原則として6カ月以内に執行されると定められていますが、確定から死刑執行までの実際の時間は、中央値で約7年(最短1年、最長19年)と幅があります。

 死刑囚は今、「残り時間」を知らされていません。以前は、言い渡しが数日前にありましたが、現在は当日の朝に告げられ、午前中に死刑が執行されています。通知から執行までの時間は1~2時間といわれます。

 事前通知をしなくなった理由は、「死刑確定者の心情の安定のため」とされているようです。実際は、前日に死刑執行を通知された死刑囚が、死刑執行当日の朝に自殺した事件(1975年、福岡拘置所)がきっかけになったとされます。

 しかし、直前まで告知しないことで、「死刑確定者の心情」は、本当に安定するのでしょうか。そもそもいつ死刑が執行されるのか、毎日不安でしょうし、遺言を書く時間も、家族や友人に「さよなら」を言う時間もなくなります。告知のない刑の執行は、かえって残虐であると、死刑廃止国や死刑反対団体からの批判もあるようです。

 私たちは、死刑囚ではありません。しかし、パスカルの言葉ではありませんが、命に限りがあるのは事実です。「死は人ごと」ではありません。一方、現代の「ゆるやかで、残り時間も予見される死」の場合は、「さよなら」のための時間があります。病気であれば、症状をできるだけやわらげ、適切な治療でなるべく長生きもしたうえで、「さよなら」をしっかりと言う。このバランスが、かぎではないかと思います。

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