がん治療前に口腔ケア

がん治療前に口腔ケア

抗がん剤や放射線によるがん治療は、がん細胞を死滅させると同時に、正常な細胞まで影響を及ぼし、さまざまな副作用が現れる。そのうち、口の粘膜の炎症を「口腔(こうくう)粘膜炎」と呼ぶ。がん治療が決まった時点から口の中を清潔に保つなどのケアが、炎症の痛みを軽減し、術後の合併症を防ぐ効果があることが分かってきた。 (福沢英里)

 静岡県立静岡がんセンター(同県長泉町)歯科口腔外科の外来。食道がんのため、抗がん剤と放射線治療を受ける県内の男性患者(76)に、歯科衛生士の辻本好恵さんが声をかけた。「七~十日ほどすると、唇の裏側などが腫れることがあるので、口の中をきれいにしていきますね」。歯石除去などの処置を終えると、男性は「治療の前に口の中をきれいにしてもらい、安心して治療が受けられる」とほっとした表情を浮かべた。

 口腔粘膜炎は、唇の裏や舌、ほおの粘膜など口の中の軟らかい部分に、抗がん剤や放射線が直接作用して起こる炎症。一般的な口の粘膜の炎症による口内炎とは区別して呼んでいる。赤く腫れたり熱を帯びたりして、痛みや出血、味覚障害、嚥下(えんげ)障害などが起き、症状が進むと、食事がほとんど取れなくなる。

 炎症は、治療を始めて一週間~十二日をピークに徐々に回復する。ただし放射線の場合は治療期間が長くなるため、二、三カ月続くこともある。一時的とはいえ、この間に食欲が低下して体重が減り、全身の免疫力が落ちると、口腔粘膜炎の炎症から細菌が入り、感染症を引き起こすこともある。

 「これまではほっておいても治る、我慢すればよいと言われ、何の予防策もなかった」と話すのは歯科口腔外科の大田洋二郎部長。しかし一九九〇年ごろ以降、手術単独の治療から、手術と放射線、抗がん剤を組み合わせた治療が広く行われるようになり、口腔トラブルを抱える患者が急増した。

 「がん治療に口腔ケアを加えると、治療中の痛みを和らげ、治療を長引かせずに行える。術後の合併症を防ぎ、患者の生活の質を維持する。結果的に治療成績を上げることにつながる」と説明する。

 首から上の頭頸部(けいぶ)がんの患者に術前に口腔ケアを行った場合と、行わなかった場合を比べると、術後合併症の発症が、ケアを行わなかった場合の四分の一に抑えられることも同センターの調べで分かった。

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 ケアの基本は、口の中を清潔に保つ▽口の中を湿らせる▽痛み止めの薬を使って痛みを和らげる-の三つ。静岡がんセンターは治療方針が決まると同時に、口腔外科で歯科衛生士が患者に歯磨きの指導をする。歯ブラシは毛が柔らかく、ヘッドが小さい方が粘膜を傷つけない。

 抗がん剤や放射線治療を行うと唾液(だえき)腺の働きが弱まり、口が乾燥しやすくなる。一リットルの水に対して九グラム(小さじ二杯で十グラム)の食塩を溶かした生理食塩水で、一日三回以上うがいをする。

 痛みが強く食事をのみ込めないときは、我慢せずに痛み止めを使う。同センターは症状に応じて具体的な痛みのコントロール法を決めている。

 食事にも工夫が必要で、熱い食べ物、塩分や酸味、香辛料などの強い食事は避ける。煮込んだりとろみを付けたりして食べやすい形状に。飲酒、喫煙はやめる。

 大田部長は「口から食べることは脳や各臓器に刺激を与え、味覚を感じることで意識の覚醒(かくせい)につながる。口の手入れをすれば、元気がなかった患者さんも口数が増え、笑顔になり、生きる力を得ていく」と口腔ケアの意義を説明する。

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