【産科医解体新書】(82)明細書義務化とがん告知

【産科医解体新書】(82)明細書義務化とがん告知

今月から医療費の詳しい内訳が分かる明細書の発行が義務化されました。患者さんの要望としては当然の流れなのかもしれません。僕ら産科医は、明細書の内容説明をそれこそ明細に求められて外来診療が止まってしまわないことを願うだけです。

 産婦人科では不正出血で受診した患者さんには子宮頸(けい)がんの検査を行います。おそらく明細書には「○○円=(病名として)子宮頸がんの疑いのため細胞診検査実施の料金」というふうに印字されるはずです。結果的にがんでない場合でもです。「がん」という字を見て動揺しない人はほとんどいないでしょうから、事情を知らない人は頭の中が真っ白になるでしょう。しかし、これはまだ良い方です。

 困るのは本当にがんのときです。初診の時点で進行しているがんがはっきりしてしまうことがあります。一緒にがんに立ち向かうために告知は重要ですが、その場ですぐに病名を伝えることはまれです。告知を失敗すれば冷たい印象を与えかねず、患者さんから治療の協力が得られなくなってしまうからです。何段階かに分けて追加の検査をしながら、同時に患者さんに病気の知識を少しずつ提供していきます。その過程で徐々に患者さんの側に病名を聞く準備を形成してもらうのです。

 明細書であっさりと病名が印字されることが重大な結果を招く可能性があることは、臨床業務をしている医者なら誰でも真っ先に思い付くはずです。それでも明細書発行を義務化することにしたのは、デメリットよりメリットの方が大きいとの判断のためでしょう。確かに既に自分の病気が分かっている患者さんにとっては、これまで言いにくかった明細書が黙っていてももらえるのは朗報だと思います。

 新しいことを導入するときに心配は尽きないものです。ぼくの考えが古いのかもしれませんが、明細書発行義務化にはこんな問題もはらんでいることを知ってもらえればと思います。(産科医・ブロガー 田村正明)

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