高額医療費:白血病患者、特効薬やめ容体悪化 自己負担、重く

高額医療費:白血病患者、特効薬やめ容体悪化 自己負担、重く

<追跡>

 ◇「薬代がなかったら、すごく楽だよな」
 岩手医科大病院(盛岡市)7階の病室。血液のがん「慢性骨髄性白血病」のため入院中のパスタ店経営、柏崎周一さん(58)は連日、39度前後の高熱に浮かされる。4月から骨髄移植に備えて始めた治療で白血球が減り、肺炎を起こしたためだ。「あの時、薬をやめなければ……」。やせ細った体から絞り出される声は、弱々しかった。

 容体がここまで悪化したのは、治療費の高額な自己負担に耐えかね、特効薬「グリベック」の服用を中断したことが原因だ。

 柏崎さんは妻木の実さん(53)と89年から同市内でパスタ店を経営、平均約600万円の年収があった。99年に白血病を発病したが、グリベックが効き、厨房(ちゅうぼう)を空けずに働くことができた。ところが、近くに大型郊外店ができた03年ごろから売り上げが落ち、年収もほぼ半減した。

 当時、1錠約3200円(保険適用前)のグリベックを1日4錠服用した。柏崎さんの負担は、患者の自己負担軽減のため設けられた国の高額療養費制度を使っても年50万~60万円に達し、家計に重くのしかかった。店の従業員を減らし、店舗の家賃も大家に下げてもらった。夫婦の生命保険も解約した。

 「薬代がなかったら、すごく楽だよな」

 ある日、店の売り上げを計算していた木の実さんは夫に話しかけられた。思わず「そうに決まってるじゃない」と返した。

 06年1月、柏崎さんは薬の量を減らし始めた。「店の売り上げが落ち込み、さらに自分の病気で妻に苦労をかけるのが申し訳なかった」。5月、医師にも妻にも黙って、ついに薬をやめた。

 9月、病院に来ない柏崎さんを心配した主治医が店を訪れ、木の実さんは治療中断を知った。検査値は大幅に悪化していた。夫が薬をやめたわけを振り返り、「年収が減り、ちょうど苦しかった時期でした。私の言葉を気にしていたのでしょう」と目を伏せた。

 柏崎さんは再びグリベックを服用したが、もはや効かず、他の治療も効果が長続きしなかった。医師から「骨髄移植しか方法はない」と告げられた。今年4月、移植に向けた準備を始めたが、命を落とす危険性もあるため、決心はついていない。

 店は妻が一人で切り盛りしているが、昨年の年収は270万円にまで下がった。

 ◇がん患者13%「効果より負担減」
 従来、進行したり、転移したがんは治療法がないとされていたが、今では新薬や治療法が次々と開発され、患者は命を延ばすことができるようになった。

 01年に登場したグリベックは、7年生存率が9割近い。従来のインターフェロンを使った治療より、大幅に生存率が上がった。

 一方、巨額開発費の影響で、1錠の価格は発売時に3000円を超えた(今年4月から2749円に改定)。患者は、症状の緩和と引き換えに、高額なグリベックを一生飲み続けねばならず、「命ながらえることが生活を困窮させる」という矛盾に直面している。

 こうした状況は、治療が長期にわたる他のがん患者でも同じだ。東北大の濃沼信夫教授(医療経済)らが、抗がん剤治療のため外来受診した患者ら256人を調査し、06年度にまとめた報告書によると、経済的理由で治療を中止、または変更した患者が約7%いた。さらに、NPO「日本医療政策機構」が昨年11~12月、がん患者や家族1618人に実施した調査では、転移や再発の経験を持ち治療を続ける患者のうち13%が、経済的な負担などのため、治療効果は低くても安価な治療に変えたと答えた。

 がんなどの治療に伴う経済的負担に詳しい児玉有子・東京大医科学研究所特任研究員は「景気後退などで患者らの負担感が増している。今後、やむなく治療を中断する患者が増える恐れがある」と警告する。【河内敏康】

 医療が進歩し、「不治の病」とされていた病気の有効な治療法が新たに登場する一方、医療費高額化に追いつけない患者が増え、不況がその傾向に拍車を掛けている。「命か金か」。理不尽な選択を迫られ苦悩する患者の実情を通じ、高額医療の現状と課題に迫る。

     ◇

 あすから2日連続で、「命を削る 高額医療の断面」を掲載します。

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 ■ことば

 ◇高額療養費制度
 患者の負担軽減のため、各月の自己負担額の上限を超える分について、健康保険組合などから払い戻される国の制度。73年に始まった。自己負担の上限は保険加入者の年齢や所得に応じて異なり、70歳未満の高・低所得者を除く一般の人の場合、自己負担の上限は月8万円超。高額療養費を過去1年間に3回以上支給されると、4回目から負担は月4万4400円で済む。

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