Dr.中川のがんから死生をみつめる:/57 「多死社会」に向けて

Dr.中川のがんから死生をみつめる:/57 「多死社会」に向けて

私が医師になって、四半世紀がたちました。しかし、この間、がん治療のあり方に根本的な変化は見られません。新しい薬物や技術が次々と開発されていますから、延命は可能になりましたが、たとえば、転移したがんが完治する可能性は、今も昔も変わらずに乏しいと言わざるを得ません。

 むしろ、変わったのは、医師と患者の関係や告知のあり方です。昔は「お医者さまにお任せします」でしたが、今は「患者さまが決めてください」です。また、以前は、「がん」という病名すら告げませんでしたが、今は「治療法はもうありません。余命は3カ月です」などと告知されるようになりました。日本人が望む「ピンピンコロリ」ではなく、「ゆるやかで、余命まで予測される死」に、日本人は直面することになったのです。

 年間の死亡数は、現在の約115万人から、今後30年で、180万人に達します。日本はこれから「多死社会」を迎えるのです。その一方、日本人はますます死から遠ざかっていると言えます。核家族化や病院死が進み「死の予習」は難しくなりました。また、世界的にはまだ「死に支え」となっている宗教の力に頼れる人は、日本人には多くはありません。私たちは「素手」で、「新しい死」に立ち向かわなければならなくなりました。現代の日本人は、「死の恐怖のフロントランナー」だと言えるでしょう。

 しかし、私たちにもできることがあります。それは、恐怖の対象である死を知ることです。今日、新著「死を忘れた日本人」(朝日出版社、1575円)が全国の書店に並びます。宇宙と私たちはどうつながっているのか、時間とは何か、なぜ人生は短いと感じるのか、なぜ私たちに寿命があるのか、なぜ人間だけが死を恐れるのか。この本では、この連載で取り上げてきた、死にまつわるさまざまな問題を考えています。

 もちろん、「死を知る」ことだけで、死の恐怖がなくなるわけではありません。しかし、幽霊が「枯れ尾花」に見えてくることもあるはずです。この本が、「多死社会」に向ける私たち日本人の羅針盤になればと思います。

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