基調講演 (4) 末期がん患者が若い医師に教えたこと

基調講演 (4) 末期がん患者が若い医師に教えたこと

読売北海道 医療フォーラム
僕は病院を作っていく時に、できるだけ温かな病院を作るようにしていった。すると、いろいろな人が注目してくれた。

 まずありがたいのは、日本中の大学の医学生が、病院に研修に来るようになったこと。がんの末期の女性患者が、東京の病院に入院していた時、僕のラジオ放送を聞いて、「そんな医療が日本にあるのか」と思って、僕の病院に転院してきた。死ぬために。もう死ぬことは分かっている。でも、彼女は気づく。ひっきりなしに医学生や研修医が来るのを知って、「私にも応援させて下さい。死んでいくことが分かっている人間が、日本の医療についてどんな思いでいるか。私が東京で受けた医療がどうで、諏訪中央病院がどうで、どう違うか。その話を医学生や研修医にしてもいい」って。

 彼女は次々に医学生に会って、話をしてくれた。大事なことに気がついた。彼女の病状は悪化するけど、彼女の顔はどんどん輝いていく。私は死んでいくけど、私みたいに温かな死を迎える患者がもっともっと増えて、救われる患者が多くなることを願って、彼女は自分の命を使ってボランティアしてくれました。

 若い医学生や研修医に話しているうちに、彼女には、自分の生きている意味、存在意義が見えてくる。病状が悪化していくにもかかわらず、輝いていく。

 僕たちは患者さんを大事にしていく。患者さんもまた、若い人たちを大事にする。お互いがお互いを大事にすることで、土俵際にある日本の医療は絶対に変われるはずだと思う。だって、どんな元気な人も、一生のうちに何度かは医療を必要とするのだから。その時に医療が技術だけでなく、ちょっと温かかったら、患者はどんなに救われるか。

 諏訪中央病院は、研修医たちにとって魅力的な病院の一つになりました。研修医がたくさん集まるようになりました。後期研修医だけでも16人。研修医は8人。あわせて24人います。多くの研修医は、病気を幅広く診て病人全体を診る「総合医」を目指しています。

 いまの日本の医師数と医療状況を考えるときに、いろいろな分野のスペシャリスト、専門医が必要なのは間違いない。だけど、例えば5人しか医師がいない病院は、5日に1回当直が回ってくるから、とても厳しい。しかも、自分の専門領域以外のことも診ざるを得ない。診られる側も不安だろうと思いながら、診る側も不安の中で診る。ならば、ある割合で総合医がどうしても必要だろうと思う。

 高度医療をやる病院は、専門医だけでいいかと言えば、そうでもない。80歳で慢性気管支炎と糖尿病があって、以前に軽い脳梗塞をおこした人が、心筋梗塞になって入院してきたとする。カテーテルでステントを入れたりして、循環器科の専門医が心筋梗塞を治療します。認知症が出ないようにするために、総合医が主治医になれば、温かい医療ができる。高度医療を行っている病院に、1割でも総合医がいてくれたら、がんの末期の時に放り出すなんてことしないで済みます。僕らのように地方の病院だったら、専門医が6割、総合医が4割ぐらいいてくれたら、ずいぶんいい。

 でも、総合医をきちっと教育できるようなシステムにはなっていません。諏訪中央病院にこれだけ集まってくるということは、そういう温かな総合医を目指している医師がたくさんいるということです。そこで教育された人が日本中に広がっていけば、日本の医療システムを変えることができる。

 高度な専門治療をする脳外科の先生が、僕の病院に来てこう言いました。

 「総合医のことをちょっとバカにしていた。広く診るというのは、浅いってことじゃないかと。でも、諏訪中央病院で総合医の仕事を見て、ずいぶんすごいと分かった。腕のいい総合医は、幅広い教養と、医学的知識、技術を持っていることがよく分かった。脳外科では、一所懸命治療したけど、何%かは植物症になったり、障害を残したりする。ずっとそれを抱えていた。でも、諏訪中央病院なら、総合医にちょっと頼むよ、と言えば、気持ちよく診てくれる。しかも総合医が診ると、リハビリをきちっとしながら家の人と話し、なんとか家へ帰れるようにする。帰ったら僕が往診しますよ、と言ってくれる」

 脳外科の専門医たちは助かる。磨いてきた腕をフルに発揮すればいい。脳外科医も整形外科医も外科医も、諏訪中央病院では当直に入らないで済む。総合医たちが2人で当直に入り、アドバイスをする指導医が1人入り、脳外科を必要とする患者が来れば、脳外科医はすぐに飛んでくればいい。呼ばれて、腕を発揮するのは自分の専門領域。もっと総合医を社会が評価することで、スペシャリストはさらに腕を振るいやすくなる。地域の医療問題を解決するのに、総合医が必要です。

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