医療用かつら:がん患者を支援 専門美容師育成、髪を寄付…闘病の励ましに

医療用かつら:がん患者を支援 専門美容師育成、髪を寄付…闘病の励ましに

がん治療の副作用で起こる脱毛は闘病中の患者を悩ませる。外見が変わり外出もおっくうになりがちだ。かつらを利用して生活の質を高めることも可能だが、医療用かつらの価格は10万円を超え、患者本人に似合うようにカット、調整できる美容師はまだ国内には少ない。美容師の育成や、かつらを患者に贈る取り組みが始まっている。【下桐実雅子】

 神奈川県逗子市の美容室に勤める樋口美香さん(40)は、がん治療などで脱毛した人たちのかつらをカットする「かつら美容師」だ。今年から仕事が休みの日を利用して患者宅に出張し、希望に合わせてかつらをカットしたり、伸びてきた本人の髪を整えている。

 樋口さん自身、がん治療の経験がある。08年9月、突然の腹痛から救急車で病院に運ばれ、卵巣がんが見つかり手術を受けた。抗がん剤治療を始めて2週間ぐらいすると髪が抜けはじめ、手で触れると玉になった。「抜けた自分の髪を見るのはつらかった」と振り返る。

 周囲の人たちに支えられて、職場に復帰。「自分にできることで社会に恩返ししたい」と、闘病中に知ったNPO「日本ヘアエピテーゼ協会」(東京都品川区、電話03・3440・4572)の「かつらの学校」に通い、かつらの基礎知識やカット、スタイリング方法を学んだ。

 同協会代表理事の河野愛一郎さん(54)は、乳がんになった妻こずえさん(51)の「かつらが自分に合わない」という訴えをきっかけに、サイズや毛量を調整しながらカットできるかつらを製作した。

 同協会が認定するかつら美容師は全国に約100人。かつらを約12万円で販売し、「“自毛”デビュー」できるまでの1年半程度、無料でカットや調整を行う。これまでに約1000人が利用した。

 河野さんは「元の自分に戻りたいという患者さんの願いをサポートしたかった。治療にかつらは不可欠で、医療費控除の対象になるように国に働きかけていきたい」と話す。

   □

 かつらが1枚10万円以上することも、患者が利用しにくい一因だ。がん患者を支援するNPO「キャンサーリボンズ」(東京都中央区)は、看護学生が寄付した髪で作ったかつらを、がん治療中の女性15人に無料配布する。家庭用品大手のP&Gジャパンが支援する事業で、8月31日まで申し込みを受け付けている(電話03・3546・6101)。

 昨年から活動を始め、これまでに約120枚のかつらを配布。利用者からは「治療費がとてもかかる中、なかなかかつらに手が出せなかったので本当にうれしい」などの声が寄せられているという。

 7月24日夜。千葉県柏市の美容室「エレガンス」(電話04・7173・8494)は閉店後にもかかわらず、女性たちでにぎわっていた。毎月第4土曜日に開いているがん患者のために髪を贈るカットイベントだ。無料でカットした髪は、がんと闘う女性たちのかつらの材料になる。

 この日は小中学生を含め7人が参加、つややかな黒髪を提供した。6人分ぐらいで1枚のかつらができるという。

 千葉市の会社員、城玲子さん(42)は「私にできるのは素材を提供することだけですが、こういう輪が広がってほしい」と話す。

 同店は毎月1回、寄付された髪を米国に送り、米P&G社が米がん協会などと協力して髪をかつらにし、がん患者に無料配布している。昨夏から本格的に活動を始め、これまでに集まった髪は170人分を超えた。このうち約90人分は、全国から郵送で届いたものだ。

 同店の美容師、長岡智子さん(31)が以前に勤めたニューヨークの美容室が、この活動に参加していたのがきっかけ。日本では、こうした活動がほとんどないため「私たちの活動が広がって、日本の患者さんにもかつらが届くようになってほしい」と長岡さん。

 寄付できる髪は長さ20センチ以上、染色やパーマがかかっていない髪。白髪が交ざる場合は全体の5%以内が条件だ。匿名では受け付けておらず、名前や住所、電話番号が必要だ。同店には全国の美容師からの問い合わせも多く、寄付の方法は同店のブログ(http://ameblo.jp/elegance‐hair/)に掲載している。

トラックバック&コメント

この記事のトラックバックURL:

まだトラックバック、コメントがありません。


多重がん被爆者50人 »
« 東大と富士通、がん治療薬開発を目的としたスパコン活用を開始